海外生活の救世主、Hentai Book

海外生活

前回の記事「ホームシック」で、海外生活のホームシックから読書を始めたという話をさせてもらった。今回は、そこから自分が読書を好きになり、自分も文章を書いてみたいと思うようになったきっかけを話していきたい。

知り合いの方から借りた小説がおもしろく、あっという間に読んでしまった私はもっと本を読みたいと思うようになった。しかし、また本を貸して欲しいと自分からは言いにくかったし、何にも誰にも気を遣わずに本を読みたいという気持ちもあったので、図書館で本を借りようと思った。すぐにネットで日本の本が置いてある図書館を探して向かった。それまで引きこもりがちだった私が、本を読みたいという気持ちのおかげで外に出るようになった。自分でもその変化に驚いたと同時に、わくわくすることが見つけられて嬉しかった。

そんなに大きい図書館ではなかったが、ひとりで外出することにはまだ慣れておらず、図書館に入ると入り口近くのテーブルで勉強や作業をしている人たちが一斉に自分を見ているような気がして、一気に緊張した。ドキドキしながらスタッフの方に「Where do you have Japanese books? (日本の本はどこに置いてありますか)」と聞いて、日本の書籍が置いてあるセクションまで案内してもらった。私の背丈と同じくらいの高さの家庭用本棚3台分に日本の書籍が並べられていた。決して本の数は多くはなかったが、読書初心者の私にとっては選択肢が少ないほうがむしろ選びやすかった。どんな本を選べばいいのかはまだよく分からなかったので、知り合いの方に借りた本と同じ作者の本があればそれと、あとは直感で選ぼうと決めていた。

ざーっと本棚を見渡して、気になるタイトルがあったら手に取り軽く中身を見て、興味を引くものであれば借りるものとして左手に重ねていった。そして数冊選んだあと、パッと「よみがえる変態」というタイトルが目に飛び込んできた。著者は星野源。私は当時星野源さんにはクリーンなイメージを抱いていたので、著者とタイトルのギャップにまず驚き、気が付いたら手に取っていた。軽く中身を確認したところとてもおもしろそうだったので、借りることを即決した。

カウンターで図書カードを作りそのカードを機械にかざして、所定の場所に借りる予定の本を4, 5冊そのまま重ねて置くと、あっという間にスクリーンに本の詳細が表示された。そのまま確認ボタンを押すとレシートが印字され、驚くほどスピーディーに本を借りることができた。図書館に限らず、オーストラリアではさまざまなサービスが自動化されていて、驚いたことが何度もある。逆に夫は日本に来て、さまざまな手続きがまだマニュアルなことに驚いていた。

話は逸れたが、無事に本を借りることができてルンルンで家に帰り、あとで読もうと借りた本とレシートをキッチンカウンターに置き、料理を始めた。しばらくして夫が仕事から帰ってきて、積んである本を遠目から見て「本借りられたんだね。図書館どうだった?」と嬉しそうに聞いてきた。引きこもりがちだった私が久しぶりに外に出て本を借りてきたことが分かって夫も嬉しかったんだと思う。「とてもよかったよ。日本の本を借りられた」などと答えていると、夫がどんな本を借りたのか気になったようで、重ねられた本の上に置かれているレシートを見始めた。日本語の本はタイトルがアルファベット表記でそのまま記載されているだけので、レシートを読んでもどんな本かは分からないだろうなと思いながら見ていたら、夫が「Heh? Hentai?! Why did you borrow Hentai book?!(へ?変態?!なんで変態の本を借りてきたの?!)」と笑いながら聞いてきた。そ、そうだった。海外に住んだ経験がある人なら分かる人もいるかも知れないが、日本語が話せない外国人でも、なぜか高確率で「変態」という言葉は知っているのだ。当時夫はまだ結婚する前の恋人で、今よりは関係性も浅かったので、変な奴だと思われたくないという気持ちから、なぜか私も異様に慌ててしまい「いや、違うよ。これはそういう本じゃなくて、ごにょごにょごにょ」などとなんと答えたかも覚えていないほどあたふたしてしまった。それが余計怪しさを生んだのか、夫はニヤニヤしながら「Haaai, hai hai hai」と言って、分かったからもう大丈夫だよといった具合でその会話を終えられてしまった。まだ読む前だったので、なぜ「よみがえる変態」というタイトルがつけられたのかを説明できないのがもどかしく、「早く本を読み終えて変態な本を読んでいるやつという誤解を解かなければ!」と謎に読書欲を加速させられた。

数冊本を借りてきたが、もちろんそのHentai Bookから読み始めた。エッセイ本なのだが、「おっぱい」というタイトルのエッセイから本がスタートする。大学時代、友人の中に星野さんのファンが多く、星野さんって結構変態だよねとファンの友人同士で話しているのを耳にしたことはあったが、個人的には星野さんに対してとても爽やかなイメージを抱いていたので、「おっぱい」というタイトルからして衝撃的だった。しかも内容もおっぱいの素晴らしさについて熱弁するもので、顔も名前も知られているあの星野源がおっぱいについて堂々と語っていことに尊敬の念さえ抱き、冒頭から心を掴まれた。(もちろん冒頭から「おっぱい」について語ったのには星野さんなりの意図があるので、まだ読んだことがない方はぜひ実際に読んで確認していただきたい。)

さまざまなエッセイが一つの本にまとめられているのだが、本を読んで声を出してあんなに大笑いしたのは人生で初めてだった。星野源という顔も名前も知られた超有名な人間が、恥ずかしいことさえもここまで正直に赤裸々に語るんだということに感服すると同時に、それがさらにおもしろさを増幅させた。寝室のベッドで読んでいたのだが、あまりにも長いあいだ私が声を出して笑っているものだから夫が心配?して勢いよくドアを開けて入ってきた。そして私がHentai Bookを読んでいるのを見ると「Ehh? Hentai book? Are you okay?(え〜?変態の本?大丈夫?)」と困ったような何とも言えない表情で笑っていた。無理はない。それまで家に引きこもりがちで少し気を病んでいると思っていた恋人が、いきなりHentai Bookを読んでひとりで声を出して大笑いしているのだ。さぞかし心配しただろう。でも本当におもしろかったのだ。もちろんそれだけではなく、考えさせられたり勉強になる部分もあって、あっという間に一冊読み終えてしまった。

そして読み進めるうちに私もこんな風に文章を書いてみたいと強く思うようになっていった。小さい頃からたくさん読書をしてきたような人間ではなく、自分には語彙力や文才がないと思ってきたので、文章を書くことにはいつも自信がなかった。そんな自分がなぜそう思ったのか、そう思えたのかはよく分からないが、もしかしたらそのひとつとして、いつも他人にどう思われるかを気にして正直になれない自分と比べて、恥ずかしいようなことでも包み隠さず正直に語っている星野さんと星野さんの文章に憧れたのかも知れない。あとは友だちも知り合いもいない慣れない海外生活で、とにかく誰かに今のこのいろいろな思いを話したいという気持ちもあったんだと思う。

それから実際にブログを始めるまでは少し時間が経ったが、「文章を書いてみたい」というやりたいと思えることが久しぶりに見つかって、なんだかわくわくした。実際にブログを始めるまでの時間も、心の奥で大事にあたためている卵みたいに、その思いが心の拠り所にもなっていたような気がする。

読書に苦手意識さえ持っていた自分がまさかこうしてブログを書くようになるなんて、本当に人生って分からない。読書好きの親友が以前「本も出会いだからね。パッと手に取ったものが意外にもそのときの自分にとって大事なメッセージくれたりするからね。」と言っていたことを、その出来事以降よく思い出す。本当にその通りだ。出会いって素晴らしい。出会いに感謝だ。

そして星野源さんについては、俳優や歌手、物書き、いろいろな形で表現をされている方だとは存じていたが、メジャーな曲以外はあまり知らなかった。けれど星野さんがいろんな形で表現をされる方で本当によかった。星野さんの書いたエッセイのおかげで、私もこうして新たな楽しみを見つけられたから。Hentai Book、星野さん、本当にありがとう。

P.S. タイトル「よみがえる変態」については読了後、無事夫(当時の彼)にその理由を説明することができた。それでも彼はニヤニヤしていた。けれど、この本を読んでからは「変態」と思われることについてもまったく気にしなくなった。だってみんな変態なのだから。もしこの本を読んだことがない方でその理由が気になる方がいたら、ぜひ「よみがえる変態」を読んで確認していただきたい。

今日もここまで読んでくださった方、ありがとう。

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